成人の食物アレルギーは奥深い|えびしまこどもとアレルギーのクリニック|吹田市千里丘の小児科

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えびクリ通信

成人の食物アレルギーは奥深い|えびしまこどもとアレルギーのクリニック|吹田市千里丘の小児科

空を眺めると秋の雲も見られるようになりましたが、日中は厳しい暑さですね。秋に運動会がある小学校や園では練習が始まる頃でしょうか。9月といえども熱中症にはくれぐれもご注意ください。

 

クリニックは3か月目に突入しました。私もスタッフも少しずつ業務に慣れてきた感じがします。先日、師匠末廣豊先生が執筆された「小児アレルギー診療ブラッシュアップ」をぺらぺらとめくっており、ふとあとがきに目が留まりました。『Evidence based Medicine、エビデンスレベルの高い論文をよく読み、理解していることも大切だけれど、同じぐらい大切で、見過ごされやすいのはNarrative based Medicineである。Narrative based Medicineはよく話を聞き、話し手の情熱で、聞き手がわかりやすいようにあらゆる努力を惜しまないことである(原文一部改変)。』と書かれていました。研修医時代から言われていたことですが、Narrative based Medicine、大切なことを改めて思い出しました。

 

 

今日の話題は「成人の食物アレルギー」です。

 

中津病院にいる頃から成人の食物アレルギーを診察しておりました。小児科医が成人を診るの?と思われるかもしれませんが、成人の食物アレルギーは、診療や診断をしてくれるところが少ないので、中津病院でも積極的に受け入れていたからです。

成人の食物アレルギーには、子どもの頃からあった食物アレルギーが治らず成人に持ち越している方と、新たに成人になって発症したケースと2通りあります。

 

成人発症の食物アレルギーの原因を突き止めるのはまるで推理探偵の様。とても奥深いのです。アレルギーが出た時の症状を細かくお聞きし、食物アレルギーかどうかを見極め、食物アレルギーの可能性が高い場合は、血液検査の項目を選定し、検査し、検査項目にない食品であれば、皮膚プリックテストを行い、診断します。話を聞きながら、可能性のある食品を推測していきます。時にはコンビニのお弁当で症状が出ていることもあり、お弁当の食品表示を持ってきてもらったり、会社に問い合わせたりします。プリックテストが必要な場合は、会社に原材料を提供していただけないかお願いします。そうやって一つ一つ可能性を考えながら診断していきます。また成人発症の食物アレルギーは、経気道的に感作されたり、経皮的に感作されたことが原因である可能性が高く、症状が出た食品の背景も探っていきます。

 

先日70歳を超えた方が、田舎でスズメバチに刺された後に、呼吸が苦しくなって、その日にキウイを食べたらさらに息苦しさが増し、その日から夜間のせき込みや呼吸困難があるとの主訴で受診されました。まず状況の整理から行います。

スズメバチに刺されて出た呼吸苦はスズメバチのアナフィラキシーだと考えました。

受診時まで続く呼吸苦、これは食物アレルギーとは関係ないと判断しました。呼気の一酸化窒素の検査を行うと300ppb以上(正常は35ppb以下)だったので、これは気管支喘息だと思いましたが、300という数値なんて小児ではみたことがないので、呼吸器内科に紹介しました。キウイは症状から食物アレルギーの即時型の呼吸器症状だと判断しましたが、どうして70歳を超えて急に発症したか考えました。頭に浮かんだのは『ラテックスーフルーツ症候群』です。「ゴム手袋や長靴を履いたら赤くなったり蕁麻疹が出たりしないですか?」とお聞きすると、「かゆくなるし、赤くなる」とおっしゃいました。これを聞いて『ラテックスーフルーツ症候群』でおおよそ間違いないだろうと思い、血液検査はハチ、キウイの特異的IgE抗体と、ラテックス、ラテックスのアレルギーコンポーネントのHev 6.02の特異的IgE抗体を提出しました。予想通り、すべて陽性でした。ラテックスフルーツ症候群だと分かれば、症状が出たキウイ以外にラテックスと交差反応しやすいアボガドやクリ等には注意する必要があること、感作の原因となった天然ゴムの製品の接触を避けることををお伝えしました。また呼吸症状が出ているので、エピペンを処方し、緊急時の対応やエピペンの使用方法を説明しました。その後受診された呼吸器内科で気管支ぜん息と診断され、吸入ステロイドが開始され、その日から夜間もぐっすり眠れるようになったとのことで、一件落着。

このように成人の食物アレルギーは、ただ症状が出た食品を検査するだけではなく、なぜその食品でアレルギー症状が出たのか、その感作源を推測する必要があります。

探偵みたいでしょ!

 

これまでに、成人発症の食物アレルギーでは、花粉食物アレルギー症候群や小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシーやフキノトウでのアナフィラキシーなど診断してきましたが、特に印象に残っているのは膠の経皮感作によるゼラチンのアナフィラキシー症例です。

 

20歳代の大学生でコンビニでかった食品を食べてアナフィラキシーで救急搬送されました。

食材はいつも食べて症状がないものばかり、ここから探偵の推理が始まります。まず食べたコンビニ試食品の食品表示を見て、アレルギーの原因となった可能性のある原材料を選びます。そしてアレルギーの検査をするとともに、業者にお願いして原材料を提供していただき、原因がゼラチンであるとわかりました。昔は多かったゼラチンアレルギーですが、今はほとんど症例がありません。なぜ?と考えて大学生の手を見たら手湿疹がありました。大学でどんな勉強をしているのかと聞くと日本画を先行しているとのこと。根ほり羽織り聞いてわかったのは膠を手で混ぜて使っており、膠はゼラチンからできているので、これが感作の原因だと考え、膠を持ってきてもらいプリックテストを行い陽性を確認しました。この症例では毎日のように使う膠が手湿疹の部分から経皮的に体に入り(これを経皮感作といいます)、その結果ゼラチンアレルギーに至ったとわかりました。この学生さんはその後、別の病院で処方されたカプセルでアナフィラキシーを起こしてしまいました。カプセルにも微量のゼラチンが含まれていました。

 

このように推測するには、患者さんから詳しく話を聞く必要があります。そして今後症状が出たらどのように対応する必要があるか、また、もし可能であれば感作の原因となったものを避けるように指導します。

成人の食物アレルギーは奥深いなあといつも思っています。 

原因がわからない成人の食物アレルギーでお困りの方がおられましたら、ぜひご相談ください。もちろん考えても考えても原因がわからないアナフィラキシーもあるんですけどね。

 

 

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