6月に入りました。来週くらいには梅雨入りでしょうか?この時期の花といえば紫陽花。
自宅近くの公園で紫陽花が咲き始めました。色とりどりの紫陽花があり、通るたびに違った色の紫陽花をみることができるのがこの時期の楽しみです。クリニックの受付カウンターには“おりがみ先生(受付スタッフ)”がとてもかわいい紫陽花を折り紙で作ってくれ、飾ってあります。受診される際にぜひ見てくださいね。
今、NHKの朝ドラで、「あんぱん」が放送されています。ご覧になっていますか?私は出勤途中なので見られないのですが、“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルにしたドラマで少々気になっておりました。先日知人が『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』という本をインスタグラムで紹介していたので、面白そうだと思い、私も読んでみました。やなせたかしさんの人柄、戦争体験、苦労された日々、そしてアンパンマンやアンパンマンマーチに込めた思いや哲学を知ることができました。
ここからは、今回はアトピー性皮膚炎治療の新規外用薬についてです。
アトピー性皮膚炎の治療薬はここ数年で劇的に変化しました。私が医師になったころ、アトピー性皮膚炎の抗炎症治療薬としてステロイド外用薬以外にはタクロリムス軟膏(プロトピック®軟膏)しかありませんでした。タクロリムス軟膏はステロイド外用薬と違う機序でアトピー性皮膚炎で起こっている炎症を抑える効果があり、また薬の分子量(お薬自体の粒子のおおきさ)が大きいのでステロイド外用薬と違って、バリアが破壊された皮膚からは吸収されますが正常な皮膚からはほとんど吸収されず、そのためステロイド外用薬のように皮膚がうすくなる、毛細血管が目立つといった副作用が起こりにくいという特徴がある薬です。ただ塗り始めた時期は皮膚のほてり感やヒリヒリした感じがあります。ステロイド外用薬である程度皮膚がきれいになってから使用してもらっていましたが、塗ったらピリピリして皮膚を掻いてしまい悪化してしまった、ほてり感があって使い続けにくいと言った声があり、治療はどうしてもステロイド外用薬中心になっていました。ステロイド外用薬はⅠ日2回から塗布を開始して、皮膚の状態が良くなれば1日1回、1日おき、週2回というようにステップダウンしてもらっていましたが、ステップダウンしてステロイド外用薬を使用しない日に保湿剤のみにすると、湿疹がぶり返してしまい、なかなかステロイド外用薬の使用頻度を減らすことができないケースもありました。
2020年にデルゴシチニブ軟膏(コレクチム®軟膏)、2022年ジファミラスト軟膏(モイゼルト®軟膏)が登場し、2022年デルゴシチニブ軟膏が6か月以上の乳児、ジファミラスト軟膏が3か月以上の乳児に使用できおるようになってからアトピー性皮膚炎の外用治療は新時代に突入したように思います。
デルゴシチニブ軟膏(コレクチム®軟膏)はステロイド外用薬と全く異なる機序で炎症を抑える作用を発揮しますが、タクロリムス軟膏のようなほてり感はなく、ステロイド外用薬のように皮膚が薄くなるという副作用も出ません。ただ炎症を抑える作用はステロイド外用薬のⅣ群(ロコイド、キンダベートなどがⅣ群にあたります)と同等かそれ以下と言われていますので、炎症が強い場合はステロイド外用薬で皮膚をいったんよくしてから、良い状態を維持するのに使うのに向いていると思います。1回の使用量は体表面積の30%以下に制限されています。
ジファミラスト軟膏(モイゼルト®軟膏)もステロイド外用薬やデルゴシチニブ軟膏とは全く別の機序で炎症を押さえる外用薬です。この薬もほてり感や皮膚が薄くなるといった副作用はなく、また皮疹の面積に応じて塗布することができること、3か月以上で使用することができること、大きな副作用がないことなど、使いやすい外用薬です。炎症を抑える力はデルゴシチニブ軟膏と同様にステロイド外用薬Ⅳ群よりも少し弱い印象です。「皮膚がもっちりとした」といったお声をいただくことが多いです。
デルゴシチニブ軟膏もジファミラスト軟膏も皮膚のバリア機能を回復させることが分かっています。アトピー性皮膚炎では中等症以上のお子さんには、プロアクティブ療法を行うことが多いですが、デルゴシチニブ軟膏やジファミラスト軟膏が使えるようになってから、ステロイド外用薬を使用する期間が短くなっているように思います。ステロイド外用薬は炎症をおさえるのに非常に優れていますが、やはり長期使用における皮膚への副作用は一定の確率で出現します。デルゴシチニブ軟膏やジファミラスト軟膏をアトピー性皮膚炎の治療初期からステロイド外用薬と一緒に使用することで、すみやかに寛解導入(湿疹のない皮膚にする)でき、寛解維持(湿疹にない皮膚を保つ)しやすくなったように感じています。
また乾燥をメインとした軽症~軽微な方には最初からステロイド外用薬を使用せず、デルゴシチニブ軟膏やジファミラスト軟膏で寛解導入も可能です。
また2024年には12歳以上で使用可能なタピナロフクリーム(ブイタマークリーム)という外用薬も使用できるようになっています。デルゴシチニブ軟膏やジファミラスト軟膏とは別の機序で炎症を抑える外用薬です。
目覚ましい進展を見せたアトピー性皮膚炎の外用薬治療。現在、国立成育医療センターを中心にジファミラスト軟膏をアトピー性皮膚炎と診断された乳児に早期から使用し、アレルギーの発症を予防できるかの治験も行われており、結果が出るのが非常に楽しみです。
アトピー性皮膚炎治療の新時代、次回は全身療法(内服、注射)について書こうと思います。