土曜日は休診をいただき、ご不便をおかけいたしました。おかげさまで、無事に息子の卒業式に参列することができました。
6年間通った校舎の佇まいや、泥だらけになって汗を流した運動場を眺めていると、さまざまな思いがこみ上げてきました。振り返れば中学に入学した6年前、入学式は新型コロナウイルスの影響で中止となり、休校からのスタートでした。中学・高校時代という大切な時期に、行事の制限や宿泊学習の延期など、我慢を強いられる場面も多々あった世代です。しかし、そんな逆境の中でも、子供たちはたくましく成長してくれました。
「青春」は、過ぎてみれば本当にあっという間です。 卒業を迎える学生の皆さんには、これからの新しい日々も、一瞬一瞬を大切に過ごしてほしいと思います。たくさんの経験が、皆さんの糧となり、さらに大きく羽ばたいていかれることを願っています。
中津病院で働いていたころ、毎年春になるとロタウイルス感染症が流行し、重症のアトピー性皮膚炎のお子さんの受診や入院が増えるのを目にしていました。「また春が来たな」と感じていたことを、今でもよく覚えています。
ロタウイルス感染症は、ワクチン接種が定期化されたことで、現在では診る機会が非常に少なくなりました。あらためて、ワクチンの力の大きさを実感しています。
アトピー性皮膚炎についても、この20年ほどで大きく変わってきました。
乳児期からのスキンケアや、早期からの適切な治療の重要性が広く知られるようになり、以前に比べると、重症なアトピー性皮膚炎のお子さんは確実に減ってきた印象があります。
また、外用薬の進歩も大きな変化です。ステロイド外用薬と保湿剤が治療の中心だった時代に比べ、ジファミラスト軟膏やデルゴシチニブ軟膏といった新しい外用薬が登場し、皮膚の状態をコントロールしやすくなってきました。
それでも、アトピー性皮膚炎のお子さんが抱える最大のつらさは、やはり「かゆみ」です。「かゆみは、痛みよりも我慢できない感覚」と言われることもあります。
かゆみが続くことで起こる悪循環
アトピー性皮膚炎の治療において、外用薬が基本であることは今も昔も変わりません。
しかし、外用薬や抗ヒスタミン薬を使っていても、どうしてもかゆみが残ってしまうお子さんがいます。かゆみが強いと、掻く → 皮膚が傷つく(バリア機能が壊れる)→ 炎症が悪化する → さらにかゆくなるという悪循環に陥ります。
この状態が続くと、日常生活や睡眠の質が大きく低下し、お子さんの発達や成長にも影響を及ぼすことが、多くの研究から分かっています。こうした「かゆみ」そのものに注目して開発された治療薬が、ネモリズマブです。
かゆみを引き起こす「IL-31」という物質
私たちの体の中には、免疫反応を調節するためのさまざまな物質があり、これらはサイトカインと呼ばれています。その中の一つである IL-31(インターロイキン31) は、「かゆみを引き起こすサイトカイン」として知られています。
IL-31には、次のような働きがあります。
- 皮膚の神経を刺激して「かゆい」という感覚を起こす
- 皮膚のバリア機能を弱くする
- 炎症を長引かせ、慢性的なかゆみを助長する
アトピー性皮膚炎や痒疹(ようしん)の患者さんでは、このIL-31が過剰に働いていることが分かっています。
ネモリズマブは「かゆみの受け取り口」をふさぐ薬です
ネモリズマブは、IL-31の「受け取り口」にあたる IL-31受容体 に結合する注射のお薬(生物学的製剤)です。
少しイメージしてみてください。
- IL-31:かゆみの「合図」を送るメッセージ
- IL-31受容体:そのメッセージを受け取る「受け皿」
ネモリズマブは、この受け皿をふさいでしまうことで、
IL-31からの「かゆみの合図」が神経や皮膚に伝わらないようにします。
その結果、
- かゆみの神経刺激が抑えられる
- 掻いてしまう行動が減る
- 皮膚の悪化の連鎖が断ち切られる
といった効果が期待できます。
「炎症を抑える薬」とは少し違います
アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド外用薬、タクロリムスなどの免疫調整薬、IL-4やIL-13を抑える生物学的製剤等、炎症を抑える治療が中心でした。
一方、ネモリズマブは「かゆみの原因そのもの」に直接アプローチする治療である点が大きな特徴です。
そのため、
- 見た目の湿疹は落ち着いているが、かゆみが非常につらい
- 夜、かゆみで眠れない状態が続いている
といったお子さんで、特に効果を実感しやすいとされています。
実際に使ってみて感じること
現在ネモリズマブを使用しているお子さんは、乳児期から重症のアトピー性皮膚炎がありました。
ステロイド外用薬で炎症はある程度落ち着くものの、かゆみが治まらず、掻いては悪化することを繰り返していました。
ネモリズマブを使用すると、診察室でよく見られていた「掻く」という動作が、ほとんど見られなくなりました。
ご本人につけてもらっている「かゆみの評価シート」でも、投与後は速やかにかゆみがほとんどないレベルまで改善しています。
ただし、ネモリズマブは炎症を直接抑える薬ではありません。
そのため、外用薬を使わなければ、湿疹や乾燥は良くなりませんし、外用治療を怠ると皮膚症状は悪化してしまいます。この点は、炎症そのものを抑えるデュピルマブなどの薬との大きな違いです。ネモリズマブは「アトピー性皮膚炎治療は外用薬が基本であることを忘れないでおけると治療薬」ということもできます。
一方で、かゆみをコントロールできることで、掻いて皮膚のバリアを壊し、炎症がさらに悪化するという「負のサイクル」を止めることが可能になります。
アトピー性皮膚炎の治療は、「どの薬が一番よいか」ではなく、「そのお子さんに今何が一番必要か」を考える時代になってきています。今後も、お子さん一人ひとりの症状や生活への影響を大切にしながら、最適な治療をお子さんや保護者の方と一緒に考えていきたいと思っています。

