気管支ぜん息
気管支ぜん息
気管支ぜん息は気管支に慢性的な炎症があり、それによって気道の過敏性が亢進します。
気道の過敏性が亢進した気管支は、風邪、冷たい空気、運動、ハウスダスト・ダニなどのアレルゲン、花火や線香の煙などに敏感で、これらが作用すると気管支平滑筋が収縮、気道の粘膜が腫れる、痰が増えることによって空気の通り道が狭くなり、咳や呼気性の喘鳴、呼吸困難を繰り返す疾患です。この炎症を放置すると徐々に気管支が固くなり元に戻らなくなってしまいます(これをリモデリングといいます)。
次のような症状がある場合、ぜん息を疑います。
聴診で呼気時に喘鳴を聴取します。安静呼吸で喘鳴は明らかにならない場合も強制呼気をさせることで喘鳴が聴取することもあります(お子さんに風車を吹いてもらうと強制呼気で聴診できます)。
最大吸気(息を最大限に吸った状態)から一気に息を吐きだし得られるフローボリューム曲線を評価します。正常では曲線が外側に膨らみますが、気管支ぜん息で閉塞がある場合、下に凸の曲線になります。また気管支拡張剤の吸入前後で1秒量(最初の1秒間に吐き出す努力呼気量)を測定し改善の割合を計算し、気道の可逆性の判断を行います。
小児気管支ぜん息の患者さんでは気道に好酸球性炎症が存在しています。この炎症によって気道粘膜の一酸化窒素(NO)産出が亢進するので、呼気のNOを測定することで気道の好酸球性の炎症を評価することが可能です。
運動負荷試験では運動によってぜん息発作が誘発されるかどうかを調べます。また気道過敏性試験、呼吸抵抗検査などがあります。
吸入抗原(ハウスダストやダニ等)を中心としたアレルゲン感作の有無を確認します。
※当院では呼吸機能検査、呼気一酸化窒素検査、血液検査を行っています。
ぜん息の治療に際し、患者さんの重症度を評価します。ぜん息の重症度は、ある期間にどの程度のぜん息症状が、どのくらいの頻度で起こったかを指標に判断します。ただ小児、特に乳幼児では、間欠的に重篤な発作が起こることがあり、中発作や大発作が月1回未満であっても年に数回生じる場合は、症状の頻度ではなく程度で治療ステップを考えます。
表1 長期管理薬未使用者の重症度と治療ステップの目安
重症度 | 間欠型 | 軽症持続型 | 中等症持続型 | 重症持続型 |
---|---|---|---|---|
症状の頻度と程度 |
軽い症状(数回/年) 短時間作用型β2刺激薬で |
1回/月以上 時々呼吸困難 日常生活に支障はない |
1回/週以上 時に中・大発作となり 日常生活が障害される |
毎日 週1~2回中・大発作となり 日常生活が障害される |
開始する 治療ステップ |
治療ステップ1 | 治療ステップ2 | 治療ステップ3 | 治療ステップ4 |
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023より一部改変
ぜん息の治療は毎日の治療(長期管理)と発作時の治療に分けられます。
毎日の治療は、ぜん息の病態である気道の炎症を改善し、症状がない状態を維持し、呼吸機能や気道の過敏性を正常にするための治療です。小児では主に吸入ステロイド薬、吸入ステロイド薬/長期間作動性吸入β2刺激薬とロイコトリエン受容体拮抗薬を中心とした抗炎症治療薬を使用します。長期管理薬を開始した後はコントロール状態を評価しながら、コントロールが良好な状態が3か月以上維持できれば、増悪因子などを考えながら薬を少しずつ減らしていきます。最終的にステップ1の治療までステップダウンして発作がない状態が維持できれば長期管理薬の中止を考慮します。
発作時は発作の程度(表2)を評価し、気管支拡張薬(β2刺激薬)の吸入、内服、全身性ステロイド投与、酸素投与などを行います。ぜん息発作時に中枢性鎮咳薬(アスベリン®、メジコン®等)の使用は呼吸抑制作用があるため使用を控える必要があります。麻薬性中枢性鎮咳薬の使用は禁忌です。
表2 発作強度判定
小発作 | 中発作 | 大発作 | 呼吸不全 | ||
---|---|---|---|---|---|
症状 | 興奮状況 | 平静 | 平静 | 興奮 | 錯乱 |
意識 | 清明 | 清明 | やや低下 | 低下 | |
会話 | 文で話す | 句で区切る | 一語区切り | 不能 | |
姿勢 | 横になれる | 座位を好む | 前かがみ | ||
身体 | 喘鳴 | 軽度 | 軽度 | 著明 | 減少、消失 |
陥没呼吸 | なし~軽度 | なし~軽度 | 著明 | ||
チアノーゼ | なし | なし | あり |
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023より一部改変
吸入ステロイド薬には懸濁液、エアロゾル製剤、ドライパウダー製剤があります。年齢や生活などを考慮し選択します。懸濁液はネブライザーを使用し吸入します。吸入時はマスクをしっかり充てる必要があります。マスクを密着させて吸入した場合の吸入効率を100とするとマスクを1㎝離した場合40となり、2㎝離した場合は15に減少してしまいます。またエアロゾル製剤の吸入には吸入補助器具(スペーサー)を利用します。ドライパウダー製剤は十分な吸気が得られる年齢(6歳以上)で適応となります。
症状が落ち着いているのは吸入ステロイドを使用しているおかげで、ぜん息が治っているわけではありません。ぜん息治療は3か月以上コントロールが良好な状態が得られたら初めて治療のステップダウンを考慮します。決して自己判断で治療を中止しないようにしましょう。吸入ステロイドを突然中止すると、その後に大きな発作を起こす可能性があり注意が必要です。
マスクを密着しないと、吸入を頑張っている意味がなくなってしまいます。テレビや絵本を見せながらの吸入でも構いません。慣れてくると自分からマスクを持つようになります。全く慣れてくれない場合は補助器具を使用したエアロゾル製剤への変更を主治医に相談してみてください。
ステロイド薬とは人の体内でも作られているステロイドホルモンをもとに人工的に作られた薬で、吸入で使うステロイドは飲むステロイドの100分の1~1000分の1の容量で十分な効果を発揮します。吸入したステロイド薬はそのほとんどが炎症を起こしている気管支にとどまるので、全身性の副反応を心配する必要はほとんどありません。
局所的な副作用としては口内炎や口腔内カンジダ症がありますので、吸入後はうがいをする、飲み物を飲む、歯磨きをする等するようにしましょう。
ぜん息の治療目標の一つに、長期管理をきちんと行い、ぜん息のないお子さんと同じように好きなスポーツをするがあります。長期管理をきちんと行えば、ほとんどのスポーツは可能ですので、抗炎症薬を用いた毎日の治療を続け、好きなスポーツを楽しみましょう。