9月も後半に入りました。週末は石川県の能登地域が大雨による災害に見舞われました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。自然災害は予想できないことばかりです。災害の被災者となった場合、疾患を持つ方は避難生活の中で疾患が悪化することがありますが、お子さんのアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、喘息などのアレルギー疾患も例外ではありません。日本小児アレルギー学会から「災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレットsaigai_pamphlet_2021」が発行されています。災害時に備え、ぜひご一読下さい。
クリニックのホームページに先月から病気から調べるというタブができたのに気付いていただきましたか?1年間はホームページを1枚ずつ追加できるので、病気から調べるという項目を追加し、アレルギー疾患中心に毎月1疾患ずつ掲載していこうと思っています。先月は気管支喘息、今月は新生児・乳児食物蛋白誘発性胃腸症を掲載しました。
今月掲載した新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の中で、最近特に多い疾患が食物蛋白誘発胃腸炎(通称FPIES)です。開業して以来すでに5名程度のお子さんをFPIESと診断いたしました。このFPIESは近年特に増えている食物アレルギーの1つです。どうしてこの疾患が増えているのか、明確な答えは出ていません。ただ一般的に考えられている食物アレルギー(即時型)とは病気の機序も治療方法も、症状が出た時の対応方法も異なります。詳細は病気から調べるの『新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症』を読んでいただいたらと思います。
症状が出る食品として離乳食開始後に多いのは卵黄で、数回卵黄は症状なく食べられるものの、その後食べると嘔吐、下痢、腹痛などの症状を繰り返す疾患です。それも摂取から数時間たってから吐き出すので、その症状が食物アレルギーだと気が付かれない場合も多々あります。嘔吐はかなり頻回で、胃の中にあるものが空っぽになるくらい激しく嘔吐を繰り返します。あるお母さんは、シンガポールのマーライオンのように吐いたと教えてくださいました。診断確定や治っているかの判定に食物経口負荷試験を実施しますが、症状が出ると本当に苦しそうに嘔吐します。そして、この嘔吐には食物アレルギーの即時型症状が出た時に使う抗ヒスタミン剤やエピペンは全く効果がありません。また一般的な食物アレルギーの即時型の大きな違いは、少しずつ食べて治していくという治療が一般的でないことです。少しずつ食べていくことで寧ろ症状を遷延化させてしまうことがあるかもしれません。このタイプの食物アレルギーではいったん完全除去をしておなかをリセットすることが必要なようです。3歳までに90%が治るといわれていますが、7歳くらいになっても治らない症例を経験します。何か画期的な治療方法があるとよいのですが、私が勉強している限りではこれという確立された方法は現在のところありません。治るお子さんと治りにくいお子さんの差はどこにあるのだろうと考えます。以前二卵性双生児のお子さんでお二人とも乳児期発症の卵黄のFPIESでした。一人のお子さんは3歳までに治ったのですが、もうひとりのお子さんは3歳では治らず、5歳を過ぎてようやく治りました。環境的な背景は同じですので、遺伝的な背景が何か違うのでしょうか、どうしてこのような差が生まれるのかとても不思議な気持ちでした。治療法がなく除去を継続するだけで、保護者の方にとってもとても歯がゆい時間かなあと思います。
私たちにできるのは、FPIESだと診断して、除去を指導し、年齢が来たら負荷試験を行うこと、そして誤食により症状が出た時に対応方法について正確に保護者に伝えていくことかなあと思っています。FPIESと診断され、少しずつ食べていきましょうと指導されておられるお子さんが時々おられます。現時点においては一般的な治療方法ではないので、あれ?っと思ったら、ぜひご相談ください。